「客が払い戻しを求めなければ寄付扱い」イベント業者の支援税制、どんな意味がある?
資金調達

自民、公明両党は4月2日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、経済対策として税制面での支援策をまとめた。
注目されるのが、開催延期や中止となったイベントの扱いだ。今回の支援策では、チケットを買った人が主催者に払い戻しを求めなかった場合、寄付とみなして税負担を軽減する。
ただ、直接的に金銭的な支援をするわけではないため、「政府はほとんど金は出さないってことですよね」「どうして客と主催者の間で片付けようとするのか」など、批判の声もあがっている。
今回の税制面での支援策のポイントはどこにあるのか。新井佑介税理士に聞いた。
●「助け合い」と「善意」による当事者間取引を国がサポートする仕組み
今回の仕組みは、「支援したい人」と「支援を受けたい人(企業)」を国が「支援」する経済対策と考えています。税制としては寄付金控除を利用した制度になります。
誤解している人も多いので具体的に説明しましょう。
「支援したい人」は、好きなアーティストや文化を助ける意図であえてチケットの払い戻しを受けない場合、所得税法上の寄附金控除が適用可能となります。これにより、自身の税金を少なくすることができます。
「支援を受けたい人(企業)」であるイベント主催者は、チケットの払い戻しと払い戻し手数料が生じないため、当面の資金繰り悪化を防ぐ効果があります。この両者を寄付金控除という税制で国が間接的に「支援」します。「助け合い」と「善意」による当事者間取引を国が税制でサポートする、この3者の関係性が今回の緊急経済対策の本質です。
今回の対策では、イベント主催者サイドに国が直接的に金銭的支援をするわけではありません。その点で「政府は金を出さない」という批判もあります。しかしながら、寄付金控除により支援する側の税金が少なくなるため、間接的には国庫が負担しています。
●払い戻しが行われてからでは意味がないので、スピードが重要
最も重要なことは、既にイベント主催者がチケット代の払い込みを受けている場合、払い戻しの請求が行われる前に当該対策は実施される必要があります。払い戻しが行われてからでは意味がありません。
その点においてスピードが重要です。「どうして客と主催者の間で片付けようとするのか」という批判もありますが、スピード感ある対応を行うためには、第3者である国が介入すると様々な調整に時間がかかります。
そのため当事者間の「助け合い」や「善意」に基づく対応が必要です。国と個人の意思決定ではどちらがスピーディーであるか、自明でしょう。
残念ながら我が国では国による直接的支援は時間がかかります。国による直接的支援が行われるまでの間、直近の資金繰りを支える必要があります。緊急事態の現在だからこそ、日本人らしい相互扶助の精神に基づいた「支援」を推進する政策「も」必要です。日本人らしさを強みに変える仕組みで当面の資金繰りを凌ぐ必要があると思います。
【取材協力税理士】
新井 佑介(あらい・ゆうすけ)税理士・公認会計士
AAG arai accounting group 代表。慶応義塾大学経済学部卒業後、BIG4系ファームを経て現職。MASコンサルティングや様々な融資案件に積極的に関与している。
事務所名 : AAG Arai Accounting Group / 経営革新等支援機関 新井綜合会計事務所
事務所URL:http://shozo-arai.tkcnf.com/pc/