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史上初の600兆円超え。企業が抱える「内部留保」の意義とリスクを専門家が解説

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史上初の600兆円超え。企業が抱える「内部留保」の意義とリスクを専門家が解説
ELUTAS / PIXTA

9月2日、財務省が法人企業統計調査を発表した。それによると、2023年度末の企業の「内部留保」は、前年度比8.3%増となる600兆9857億円だったことが明らかになった。内部留保が600兆円を超えるのは初めてのことだ。

内部留保とは、法人税等が差し引かれた「当期純利益」から、株式の配当に回されない部分のことを指す。「利益剰余金」として社内に蓄積される。

内部留保が多いと「従業員に還元して経済を回すべきだ」との批判もあるが、コロナ禍では資金繰りにあてられるなど、内部留保が企業を支えたことも事実だ。

企業にとって内部留保のメリットや、逆に内部留保が多すぎるデメリットなどについて、中釜和寿税理士に聞いた。

●内部留保は「事業の安定性確保」や「企業価値向上」の源泉

内部留保のメリットとしては、第一に「事業の安定性確保」という側面が挙げられます。
内部留保が存在することで、サプライチェーンにおける物価上昇、災害といった予期せぬ事象が起こった場合でも、事業運営の継続が可能となります。

そのため、内部留保を適切な水準に保つことは、企業の持続可能性を確保する上で非常に重要なことです。

また、企業価値を持続的に向上させるためには、安定性の確保だけでなく、成長機会を適時に捉える必要があります。

たとえば、競合他社が新商品を発売したが自社にはその開発能力がないという場合、研究開発に対して多額の投資をしなければなりません。

資金が用意できず研究開発において遅れをとってしまうと、事業運営にとって致命的となる可能性もあります。
そのようなときでも十分な内部留保があれば、成長の機会を逃すことなく、タイムリーな投資意思決定を行うことが可能となります。

さらに視野を広げると、研究開発だけでなく、マーケティングや人財開発、テクノロジーなど、様々な各経営領域に戦略的な資本配分を行っていくことが企業には求められています。

●過大な内部留保は機会損失につながる

一方で、内部留保自体の収益率は0%であり、額面金額以上の価値を生み出しません。

つまり、他によい投資機会が存在するにも関わらず過大な内部留保を確保してしまうことで、そこで得られたであろう収益を失った「機会損失」の状態となりかねません。

インフレーションや円安の環境下では、内部留保が持つ相対的な貨幣価値が減少することさえ起こり得ます。

ファイナンスの観点から見れば、「NPV(※)が正のプロジェクトには投資をし続ける」ことが企業価値を最大化する上での鉄則となります。

高い成長率を示す事業機会や、一定の収益性を示す金融商品に投資することで、間接的に内部留保は投下資本となり、企業価値向上の源泉となるのです。

なお、短期的な成果が目に見えにくいため、人への投資はコストとして捉えられることが多いですが、 賃金上昇を含む人的資本に対する投資は、中長期的には大きなイノベーションの源泉となります。

※NPV: Net Present Valueの略称。正味現在価値。特定のプロジェクトから回収されるキャッシュと投下資本との差額を現在価値で示したもの。NPVが正であれば、プロジェクトへ投資することで企業価値が増加する。

●適切な内部留保の維持と投資意思決定の慎重な判断が必要

中小企業の経営においては、投資意思決定においてさらに慎重な判断が求められるケースも多いと考えます。自社の経営成績や財務状態を継続的に把握し、適切な内部留保を維持すること、また投資機会に対しては財務プロジェクションを通じて、意思決定のレベルを上げてゆくことが重要です。

【取材協力税理士】
中釜 和寿(なかがま・かずひさ) 税理士・公認会計士
Big4のディレクターとしてグローバル本社への出向、日本のマネジメント・オフィス勤務などを経て、 2024年にアセンディア税理士法人を設立。 現在は個人から大規模な法人の税務顧問を担当するほか、グローバルに事業展開する日本企業や海外のAIスタートアップ等に対するアドバイザリーサービスを提供している。専門領域は法人・個人税務のほか、経営戦略やファイナンス。現在は業務の傍ら、スタンフォード大学経営大学院LEADプログラムで経営戦略やイノベーションを学ぶ。
事務所名 :アセンディア税理士法人
事務所URL:https://tax-corporation.asendia.jp/

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