「1時間150円」で使える都のベビーシッター助成に税負担のワナ 国は優遇策を講じず
所得税

東京都が待機児童対策として行っている、ベビーシッターの助成事業がSNS上で注目されています。2020年度からは1時間150円と破格の料金で利用できるのですが、助成を受けた分が所得税法で雑所得とみなされ、利用した人に課税されるのです。なぜこのような運用になっているのかを調べました。(ライター・国分瑠衣子)
●年収300万円の人が月160時間利用したら、課税額は59200円
「保育園落ちたら、民間のベビーシッターを1時間150円で利用できる件 これはちょっと『ない』。確かに入れないよりましかもだけど、カラクリがだいぶやばい」。2月11日、SNSへの投稿が大きな反響を呼びました。1時間150円で利用できることをアピールしていたベビーシッター事業者も「助成金が利用者の雑所得として課税される記載がなかった」として、お詫びを掲載する事態になりました。
東京都のベビーシッターの助成事業は2018年度から始まりました。対象は0歳児から2歳児クラスに当たる待機児童の保護者と、0歳児クラスに申し込まずに、育児休業が終わり、年度途中から復職する人が対象です。現在、事業を行っている市区町村は新宿区や目黒区や中野区、三鷹市、国立市など14自治体です。
18年度は、年度途中の12月から事業がスタートしたため、ベビーシッターの利用者は14人にとどまりましたが、19年度は19年12月現在、250人に増えています。東京都福祉保健局によると、週に70時間程度の利用が多いといいます。
利用拡大のために、東京都は2020年度から個人が負担する利用料を1時間250円から150円に引き下げます。1時間当たり2400円を上限にした利用料から、個人負担を引いた分を公費で賄います。内訳は東京都が8分の7、市区町村が8分の1を助成します。しかし、この助成額が年間20万円を超えると所得税法の「雑所得」になり、確定申告が必要になります。申告後、所得税に課税されます。
実際にどのくらい課税されるのでしょうか。東京都がモデルケースとして試算した資料によると、年収300万円の人が、1カ月平均で160時間利用した場合は、1カ月59200円が課税されることになります。ベビーシッター料金(150円×160時間)と課税額を合計すると、年間で約100万円かかる計算です。また、ベビーシッターが自宅に来るまでの交通費は利用者負担になるケースが多いため、さらに支出がかさみそうです。一対一の保育と集団保育という違いはありますが、認可保育園の利用料に比べると割高です。
東京都福祉保健局の担当者は「国には19年6月と11月、ベビーシッター事業や子育て支援事業全般において、税制の優遇措置を求めてきました。東京国税局にも利用者に税額がかからない方法がないか相談しましたが、今の所得税法のスキームでは難しいという結論でした」と説明します。
●ベビーシッター派遣でも非課税の事業はある
さらに東京都の担当者は「ベビーシッターの派遣でも非課税の事業もあります」と指摘します。都内の複数の区が行う、子ども・子育て支援法に基づく「居宅訪問型保育」は、待機児童の自宅にベビーシッターが出向き、一対一で保育をします。居宅訪問型保育を行う豊島区によると、利用者は認可保育園と同じ利用料を支払い、差額は公費で賄いますが課税はされません。家庭で1対1で保育をしますが、一般的なベビーシッターのように保護者がやってほしいことだけやるというわけではなく、認可保育園と同等の扱いになるためです。定員は10~20人ほどで、3月まで利用者はいっぱいの状態といいます。
居宅訪問型保育は、導入している自治体が限られ、定員も少ないという課題がありました。このため、東京都がベビーシッターの助成事業を始めたという背景があります。ベビーシッターが待機児童の保育を行うという点では、居宅訪問型保育も東京都の事業も変わりません。都の担当者は「実態は同じなのに、認可保育園と同等の扱いになるか否かで、課税の有無が決まってしまいます」と残念がります。
●私立高校の授業料無償化は非課税
助成金が雑所得とみなされるのはベビーシッターの助成だけではありません。自治体が行う、認証保育所や認可外保育施設の補助金も20万円を超えた場合は、確定申告する必要があります。
国税庁に見解を聞きました。「外部から経済的価値の流入があるものは所得の概念があります。このため、すべからく所得は課税対象になります」(個人課税課)。助成金であっても所得とみなされるということです。
ただし、法律で非課税と明記している場合は除外されます。例えば私立高校の授業料の実質無償化や幼児教育・保育の無償化は、それぞれの法律で非課税の規定が盛り込まれているため課税されません。また、所得税法にも例外規定はあり、損害賠償金やノーベル賞の賞金などは非課税になるそうです。
東京都の待機児童数は、2019年4月現在で3690人です。2017年の8586人に比べ、6割近く減っていますが、保育施設はまだ十分とは言えない状況です。保育の受け皿を増やすための自治体の努力の前に横たわる税法の壁。待機児童解消を目指すならば、柔軟な運用をするわけにはいかないのでしょうか。