計上とは?「売上」「経費」など各種計上の基礎知識や基準の選び方を解説
経理業務では「売上を計上する」や「仕入を計上する」といった言葉をよく耳にします。
売上や仕入の計上には、客観的で合理的な基準を設けて、計上処理を行う必要がありますが、経理業務に慣れていない場合は、売上や仕入はいつ計上するのが良いのか、どのようなルールで行えばいいか分からないという方も多いのではないでしょうか。
そこで、各種計上の基礎知識や、計上のルール、基準の選び方などについて詳しく解説いたします。
目次
計上とは
計上とは、広く使われる意味では「全体の数値(計算)に組み入れること」をいいます。
会計上では、「帳簿に記入して決算書に反映すること」という意味です。実務においては収益や資産に計上することを「上げる」、一方で費用に計上することを「落とす」と表現することが多くなっています。
計上にかかる3つのルール
売上や経費を計上するには、どのタイミングで計上をするかルールを決める必要があります。以下3つのルールについてご紹介します。
現金主義
「現金主義」とは、金銭の受け渡しが行われたタイミングで計上を行う方法です。現金が入金された際に売上を計上するなどわかりやすいのが特徴です。
ただし、商品やサービスの提供後、売上計上まで時間がかかるなど、会計上は正確ではないと考えられています。そのため、個人事業主や、規模が小さく金銭のやりとりのほとんどが現金である場合などに採用されています。
発生主義
「発生主義」とは、金銭の受け渡しがまだでも、取引が確定した段階で計上を行う方法です。企業会計原則(※)において、費用は発生主義で行うことが原則となっています。
実現主義
「実現主義」とは、商品やサービスの提供により、収益を得る権利が確定したタイミングで、収益を計上するという方法です。
売上を発生主義で計上すると、製造業などでは実際の売上に相違があることもありえます。そのため、企業会計原則に基づき、収益は実現主義で会計処理をすることが原則となっています。
※企業会計原則…企業が財務諸表を作成する際に守るべき原則
計上の原則的なルールがわかったところで、「売上(収益)」「仕入」「経費」「引当金」の計上基準について、詳しく解説していきます。
売上(収益)の計上基準
商品や製品を販売したり、サービス(役務)を提供した場合などに、その対価として得た売上(収益)をどのタイミングで計上するかが問題となります。
例えば、工場から出荷し配送業者を経て、3日後に先方(お客様)の手元に届く場合は、どの時点で売上を計上すれば良いのでしょうか。
このように商品を販売する場合は、「引渡時・売買契約の締結日時・代金の決済時」が必ずしも一致する訳ではなく、どの時点をもって売上を計上するかで、当期及び翌期の売上が変わる可能性があります。
売上が変われば、当然、所得金額も変わり税額も変わってきます。どこで線引きをして基準日とするかを「売上計上基準」といいます。
売上計上基準は、合理的理由があれば各々の会社の事情に合わせて、基準を選択することができます。また、商品や取引先ごとに異なる基準を用いることもできます。
ただし、一度採用した基準については、正当な理由がなければ変更することができません。
主な売上計上基準は5つあり、その詳細は以下のとおりです。
1. 出荷基準
商品を倉庫や工場から出荷した時、船に積み荷をした段階で先方に対して引渡しがなされたものとする基準。
2. 納品基準
商品を納品した日に売上を計上する基準。この場合、納品書を相手方に渡し、受領書に受領印をもらった場合、その納品書の日付が売上の計上日となります。
3. 検収基準
先方が数量や品質などを確認し、検収通知の発行をもって引渡しが完了したとする基準。
4. 使用収益基準
土地、建物などの不動産の販売の場合に、先方が使用可能となった日を計上日とする基準。
5. 検針基準
電気・ガス・水道などの販売において、メーターで検針し使用高を確認した日を計上日とする基準。
請負による売上(収益)計上基準
請負には主に、物の引渡しが必要な場合と、物の引渡しを必要としないサービスの提供の2種類があり、それぞれについての計上基準は以下のとおりです。
物の引渡しが必要な場合(建築・建設工事業等)
1. 完成引渡基準
目的物の全部を引き渡した日に売上を計上する基準。
2. 部分完成基準
建設工事等の一部が完成し、その完成した部分を引き渡した都度その割合に応じて、工事代金を収入する旨の特約又は慣習がある場合などにおいて、その事業年度において引き渡した建設工事等の量または完成した部分に対応する工事収入を売上に計上するとする基準。
物の引渡しを必要としない場合(サービス業等)
3. 役務完了基準
サービスの提供により得られる対価は、そのサービスの全部の提供が完了した日に売上に計上するという基準。
4. 部分完了基準
サービスによって得られる対価が期間の日数等により算定され、かつ、一定の期間ごとにその金額を確定させて支払を受けることとなっている場合など、支払い受けるべき報酬の額が確定する都度その確定した日に売上に計上するという基準。
証票の保管を忘れずに
収益の計上基準について、上記のいずれをした場合でも、売上計上時点を証明する証票書類を保管することが大切です。例えば計上を出荷基準とした場合は運送会社の引取りを証する伝票、検収基準であれば客先の検収確認印・日付が入った書面などが該当します。
これらは、帳簿作成の上でも必要不可欠なものになります。万が一、先方とトラブルが発生した場合においても重要な証明書類にもなりますので、忘れずに保存しておきましょう。
また、売上(収益)基準は上記以外にもあり、業種や取引の様態によって適用すべき基準は多種多様です。株式公開や税務調査の際に、今まで適用していた基準に問題があることが判明し、事業計画の見直しを図らなければならなくなるケースもあります。
さらに、売上の計上基準を見直すことで、不確定な売上を計上せずに済むことにもつながります。税金の問題やその期の本来の売上を把握するためにも、売上の計上基準は合理的なものにしましょう。
仕入(原価)の計上基準
仕入とは、販売の目的を持って外部から商品などを購入することです。
仕入の計上時期は、「入荷時」「検収時」「請求書到着時」「支払時」などが考えられます。ただし、棚卸資産として貸借対照表に計上される場合には、所得金額には影響を与えないため、売上の計上時期に比べると仕入の計上時期は重要ではない場合があります。
売上の計上基準と同様に、任意に選択できますが、一度採用した基準については、正当な理由がなければ変更することができません。
主な仕入れ計上基準は3つあり、その詳細は以下のとおりです。
1. 発送基準
商品を仕入先が発送したときに仕入を計上する基準。
2. 入荷基準
商品が入荷したときに仕入を計上する基準。
3. 検収基準
入荷した商品を検収したときに仕入を計上する基準。
在庫と原価の関係
仕入計上基準は、上記の他にも方法があり、売上と同様に任意に選択できます。
注意すべき点として、正しい計上基準で計上された仕入でも、仕入金額がそのまま費用になるとは限らないことです。なぜなら、在庫として手元に残っている商品を費用に組み入れてしまうと、売上と原価が対応しなくなるため、利益の計算が難しくなってしまいます。
期末まで在庫として残ってしまった商品に関しては、当期の利益にはならないので、次期以降に売上が見込めるものとして期末の資産になります。これを棚卸資産といい、この棚卸資産が過不足なく計上できているかどうかは、税務調査でも確認される箇所になりますので正確に管理しましょう。
経費の計上基準
経費の計上は、いわゆる「経費で落とす」ということです。
経費とは事業にかかる費用のことを指します。事業における利益は、得た収入から経費を引いて算出するため、経費として認められる費用が多いほど、所得(利益)が少なくなり、納税額を減らすことができます。
経費の計上は、前述のとおり、現金主義または発生主義で会計処理を行います。しかし、すべての支出を経費として計上できるわけではないので注意が必要です。
売上を得るための支出
経費として計上できる支出は、事業と関連するものに限られます。
例えば飲食店における食材費などはもちろんのこと、取引先との打ち合わせに必要な飲食費・交通費なども経費として計上することができます。
具体的には以下のような支出が経費として計上できます。
- 租税公課(事業税、自動車税、印紙税、固定資産税、不動産取得税など)
- 水道光熱費
- 通信費
- 交通費
- 接待交際費
- 修繕費
- 減価償却費
上記の他にも、事業に関連していれば経費として認められるものが多くあります。
一方で、上記の中でも事業に関連していなければ経費として認められません。
例えば、ワーキングスペースを借りて、そこで事業を営んでいる場合は、自宅にかかる固定資産税や家賃を経費として計上できません。事業主が個人的に使用するものは経費として計上しないようご注意ください。
また、自宅で事業を営んでいる場合でもあっても、その場で生活している限り、全額を事業ための費用として経費に計上することはできません。
生活と事業を同じ場所で行なっている場合には、その割合に応じて(家事按分をして)正当な金額を経費として計上します。
未払い分の経費の計上
経費として計上できるのは、その期中に発生したものに限られます。したがって、期末時点では未払いでも、既に商品やサービスの提供を受けている場合には、その費用を経費に計上することが可能です。
例えば、今期分に使用した水道光熱費や通信費などを翌期に支払う場合は、「未払費用」として計上することができます。
経費の計上のために必要なもの
経費に計上するためには、「取引の証拠」が残っている必要があります。取引の証拠となる書類は「領収書・レシート・出金伝票」などがあります。
経費計上のためには、必ずしも領収書である必要はありません。領収書をもらい忘れていたとしてもレシート自体が取引の記録になります。
また、領収書もレシートもない場合には、取引日・金額・支払先・支払内容を記録した出金伝票を作成する必要があります。
ただし、出金伝票は偽造しやすいものであるため、あまりにも出金伝票が多数を占める場合や高額な支払の場合、税務署から指摘を受ける可能性がありますので、できる限り領収書またはレシートを手元に残すことをおすすめいたします。
なお、これらの書類の保存期間は、法人・個人関係なく、確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存しなければならないとされています。
引当金の計上基準
引当金は、将来起こりうる費用または損失に備えておくために、あらかじめ損金計上しておく費用のことです。
引当金として認められるには以下の要件を満たす必要があります。
- 費用・損失が将来に発生する可能性が高いこと
- 費用・損失の発生が当期以前の事柄に起因すること
- 費用・損失の金額の合理的な見積もりが可能なこと
以上の要件を満たす場合、その金額を当期の費用または損失として処理します。また、引当金残高は貸借対照表の負債の部または資産の部の評価勘定に記載します。
そして、引当金は以下の2種類に分けられます。
- 評価性引当金:将来の損失に備え、資産から控除されるもの
- 負債性引当金:将来の支出に備えるためのもの
評価性引当金
まず、評価性引当金として認められるものには、貸倒引当金、投資損失引当金があります。
1. 貸倒引当金
売掛金や貸付金などの金銭債権が回収できなかった時のために、取立不能見込額をあらかじめ見積もり計上しておく引当金をいいます。
取立不能の恐れが高い金銭債権について、見込額を個別に評価し、貸倒引当金として控除できます。その他の金銭債権は、一括で過去の貸倒実績率に基づいて評価し、貸倒引当金として計上できます。
2. 投資損失引当金
子会社株式などの価額が著しく低下したものの、回復可能性が見込めると会社が判断し、減損処理を行わなかった場合には投資損失引当金を計上することができます。
この回復可能性は将来に渡る予測であり、確実性を持って判断することは困難である以上、計上が認められています。
負債性引当金
一方で、負債性引当金は、さらに債務性があるものとないものの2種類に分けられます。
負債性引当金で債務性があるものには、「賞与引当金、退職給付引当金、返品調整引当金」などがあり、債務性がないものには、「修繕引当金、債務保証損失引当金、損害補償損失引当金」があります。これらの一部の引当金について、詳細を解説いたします。
3. 賞与引当金
会社が従業員に支給する翌期の賞与のうち、当期負担分となる部分を見積もり計上する引当金をいいます。
例えば、4月に決算を行う会社であって、賞与支給が7月と12月で、7月に支給される賞与の対象期間は1〜6月、12月に支給される賞与の対象期間は7〜12月となる場合、7月支給分となる賞与のうち、決算月である3月までに含まれる1月〜4月にあたる4ヶ月分の賞与額を賞与引当金として計上します。
4. 返品調整引当金
返品が予想される商品に対する引当金をいいます。これは当期に売り上げた商品について、翌期以降に買い戻すという契約がなされている場合のみ引当金を計上することができます。計上できる金額は、当期に販売したうち、翌期の返品が予想される部分に相当する額となります。
5. 修繕引当金
建物や機械などの固定資産について、修繕費が今後も継続して必要になる企業が、将来の修繕に必要となる費用を見込んで計上する引当金をいいます。修繕が必要となるのは、将来のことですが、現在の業務を起因として将来に修繕が必要になるため、今期の経費として計上します。
計上に関する注意点
最後に、計上に関する注意点についてみていきます。
計上時期のずれ(期ずれ)
売上の計上日などは、税務調査においてしばしば調査対象となる点であり、計上時期が正しいのか、期ずれが生じていないかなどを確認されます。意図的でなくても期ずれが認められた場合、追徴課税が行われる可能性もありますので注意しましょう。よくある期ずれのポイントとして以下のような例があります。
- 売上計上と請求書の発行を同時に行なっていたため、請求書の締め日から期末までの計上が漏れてしまった
- 入金と同時に売上を立てていたため、商品を引き渡し終わっているのに売上を立てていなかった
基準の変更
計上基準は、一度採用したものを継続して適用することが条件です。ただし、以下のような正当な理由がある場合に限り、変更が認められています。
- 販売方法の変更
- 契約内容の変更
- 取引条件の変更
- 取引量の著しい変化
税務調査の際に、利益調整のための変更であるという指摘を受けると、変更が認められないうえに、追徴課税が行われる場合があります。計上基準を変更する必要が生じた場合は、正当な理由をもってして変更を行ったことを証明できる資料の用意が必要です。
計上は多岐の事項にわたり複雑そうに見えますが、経営を行う上で避けては通れないものです。計上の仕方によって節税できる反面、税務調査の対象となる可能性もあります。正しい知識を身に付け、事業にも活かしていきましょう。
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IFRSの導入
IFRSとは、「International Financial Reporting Standards」の略で、国際財務報告基準のことです。グローバル企業と取引があったり、海外進出を検討したりしている場合には、IFRSを適用することでメリットが生まれ、海外投資家への説明や海外での資金調達も行いやすくなります。
一方で、IFRSは日本の会計基準とは異なるため、日本の会計基準とIFRSでそれぞれ会計を行わなければならないなど二度手間となることがデメリットとして挙げられます。
また、収益の認識も異なります。例えば、IFRSでは日本基準では認められている「出荷基準」を採用することができません。もし、IFRSの導入を考えるのであれば、システムの変更や関係各部署への通達と教育が必要になりますので、しっかりと計画を立てて行うことが必要です。
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